2014年5月25日日曜日

5月21日勉強会・ゲスト講師:牧村朝子さん

8 -エイト-」公式ブログにお越しくださったみなさま、初めまして。演出助手のスタッフSです。「8 -エイト-」の好きな登場人物はクリスとライアンです。

 今、「えっ、好きな登場人物?劇ってこんな段階でもうキャラクター像が固まってるの?」と思った方、そうです、我々が今回上演する「8 -エイト-」はゼロから創りあげるわけではありません。物語の大枠は実話に沿って構成されており、そして本国アメリカで既に上演された脚本を用いて行うのです。詳しくはこちら。つまり、音楽で言うところのコピー、じゃなかった、カヴァーなのです。

 ゼロからの創作とカヴァーと、どちらが難しいのか私には分かりませんが、カヴァーにはカヴァーの、それも外国作品ならではの難しさがあるなと最近は痛感しています。自分の生活の経験から生まれてきたものを自分と近い社会に生きている人に届けるのではなく、他人の経験から生まれたものをまず自分が受け止めてから、元の社会からは距離のあるところで生きている人たちに届ける。そのままやっても上手く伝わるわけないし、まさしくコピーじゃなくて、カヴァーにしなくてはいけないなあ、一筋縄ではいかないなあと思っています。

 というわけで、まずは「8 -エイト-」を俳優陣のみんなで一旦受け止めてみるという作業を521日の勉強会では行いました。そしてなんとこの日は、自分たち以外の視点も取り入れて「8 -エイト-」について考えるべく、ゲスト講師として牧村朝子さんに参加していただきました。牧村さんレズビアンであることを公言されているタレントで、様々な媒体での執筆や、講演、イベント出演などの活動をされている方です。この日は、本国アメリカで上演された際の「8 -エイト-」の映像を牧村さんと一緒に視聴しながら、ざっくばらんに感想を共有したり、「8 -エイト-」を日本でやるにあたって目指すべきものを一緒に考えて頂きました。

 その中で、スタッフSが特に印象に残ったことを、いくつか書いていきたいと思います。

劇中で、同性婚反対派が「子どもを同性婚から守れ」と主張するシーンについて、牧村さん「同性婚反対派はよく子供を守れ、子供に悪影響だ、と言うけれど、そういう人は、セクシュアルマイノリティの子供もいること、セクシュアルマイノリティの親の下で育つ子供もいること、が目に入っていない。」そうですよね、そういう子供がそんな発言を耳にしてしまうことの方が悪影響ですよね。これは、日本でもよく用いられる論法だと思います。

 同性婚合法化を目指す原告側が、なぜ強く自身の同性愛者としてのアイデンティティをはっきりと打ち出そうとするのかについて、牧村さん「権利を主張するためには、同性愛者とはどういう人なのかというのをはっきりさせなくてはいけないので、『生まれながらの同性愛者です』などの強いアピールになる。でも、それは、自身のアイデンティティを強く打ち出せないマイノリティを疎外するかもしれないし、新たなマイノリティを生むかもしれない。」なるほど、きっちりアイデンティティを固めないとものを言っちゃいけないかのような雰囲気を目の当たりにすると、自分のセクシュアリティの認識が揺れている人は、自分が疎外されているように感じるかもしれませんね。我々の上演の際も、いろんなアイデンティティの持ち方をしている人たちを、なるべく切り捨てないような描き方をしたいところです。

 同性愛者の登場人物が、日々のいろんな場面でカムアウトすべきか判断を迫られると述べるシーンについて、牧村さん「そうそう、いろんな手続きとか、日常の何気ない会話で、説明が必要になったり、隠し事をしなきゃいけない煩わしさがあるから、はっきりとカミングアウトをするということが必要になってしまう。」ううむ、マジョリティ側はわざわざカミングアウトして自身のセクシュアリティを表明しなくても、すんなり生活できてしまうので、そこは大きな違いですね。非当事者がセクシュアルマイノリティズについて学ぶときに(「8 -エイト-」の俳優、スタッフには当事者も非当事者もいます)、セクシュアリティの分類だとか、平等の思想などから学ぼうとすることが多いと思いますが、日常の具体的な場面に潜んでいる細かいコミュニケーションギャップについて考えることも必要なのかもしれません。

 さて、本当はもっといろんなことを話しましたし、我々の俳優陣からも活発な発言がありましたが、ブログはこのあたりにして、あとは最終的な劇のパフォーマンスを通して、この日のエッセンスをお届けできたらと思います。

 最後に、牧村さんから「この上演が教育啓発的な形になって、観客が『外国にこんな困っている人たちがいたんだ、同性婚に賛成しなきゃね』という印象を持つだけで終わってしまったら悲しい。同性愛を気持ち悪いと感じている人も含めて、観た人が自身に深く関わってくるものとして捉えられるようにできたら成功だと思う。」というメッセージをいただきました。

 本当にその通りだと思います。この日得たものを糧にして、観た人自身を揺さぶれるような劇を作っていきたいと思います。牧村さん、本当にありがとうございました。

 そして、ブログを読んで下さったみなさま、今後は稽古の模様等もお伝えしていく予定です。今後とも「8 -エイト-」をよろしくお願いします。

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